OGP Image

リスキリングについての雑記

2023 年 06 月 14 日 | 

現代社会ではリスキリングが重要な話題となっています。

しかし、30代以降でリスキリングを成功させるには、領域を相当に絞り込む必要があると私は考えています。この意見について具体的に書いていきたいと思います。

なおここでいうリスキリングの成功の定義は、新たな領域で実務を遂行できる程度に熟練している状態とします。

例えば経理におけるリスキリングの成功とは、簿記2級の取得だけでなく、月次決算の実務がこなせる程度まで熟練することを指すこととします。

私自身、社会人としてのキャリアを通じて、役割の変化や転職を幾度も経験し、経理から始まりシステム設計、プロジェクトマネージメント、コンサルタント、労務、法務、財務、採用、営業、経営など、多岐にわたる業務領域を経験してきました。

しかし私の各業務領域における熟練度はまちまちで、経理に関してはいわゆる「チョットデキル」領域にあると考えていますが、営業に関しては「客先に出しても恥ずかしくない」程度のレベルで商品自体をよく理解していれば最低限の役割は果たせるものの、本職の営業の方には鼻で笑われる程度の熟練度しかありません。

この熟練度について、一般化してお話しするために、便宜上、以下の3つに大分したいと思います。

熟練度

度合い

内容

理解

0->5

当該領域の知識を有しており、会話などを聞いて(最低限の)理解ができる。

習得

5->20

見本などをもとに、実際に手を動かして業務をこなすことができる。

習熟

20->100

未知の業務であっても経験や知識に基づきアウトプットを創出することができる。


(なお、実際の職場においては、「理解」がないままに、「習得」から始めてしまう人もいるので、上記定義に当てはまらないことも多々あるのですが、正しく熟練度を上げていくためには、理解がまず最初にあることが望ましいと思います。)


記載の通りではありますが、「一通りの知識と手を動かした経験をして、全体像をなんとなく知っている状態」を「理解」と、「知識を活用し、先人の型や定型業務などを踏襲して実際の実務を行うに足るレベル」を「習得」、「新規性の高い業務であってもなんとかこなせるようになったレベル」を「習熟」の入り口とします。

私はスキル習得の観点では非常に恵まれたキャリアを歩んでおり、その時々の会社において業務上否応無しにリスキリングが求められたことで、様々な業務領域において学習(理解)をし「習得」まで至ることができました。

その中でも、経理やシステム設計・構築、労務などについては「習熟」の領域に達しているものと自負しています。ただし、当然「習熟」にもレベルがあり、その中では差し詰め、上には上がいることを知っている「チョットデキル」レベルでしょうか。

さて、昨今の社会では、kindleなどの電子書籍の普及により体系だった知識へのアクセスは格段に簡単になっていますし、YouTubeやUdemyなどの動画教材でノウハウやハンズオンでの学習なども充実しているため、「理解」に至るためのハードルは非常に低くなっているように思います。


経理に必要な知識である簿記は高校生などでも取得できる資格ですし、システムエンジニアに必要なプログラミングやそれに伴うツールの活用は今や小学生ですら使いこなす時代なので、社会人経験のある大人が真剣に取り組めば、1年もかからずに「理解」の水準まではいけるはずです。

(ちなみに簿記の講座は、CPAエクセレントパートナーズ株式会社が1級までの講座を完全無料で公開しています。すごいですよね。)


一方で、「学習」により理解まで到達したとしても、「習得」の段階に進むには大きなハードルがあるように思います。

なぜならば、実務経験がなければ「習得」に至ることは難しく、また「習得」していなければ実務経験を積むことが難しいというニワトリたまごのような問題が存在するためです。


20代であれば未経験であっても、学習により「理解」の段階まで進んでいれば、問題なく未経験での転職を成功させ、そこで実務を積むことで、「習得」、そして「習熟」までコマを進めることができるでしょう。しかし30代前半、30代後半となるにつれて実務未経験での転職が難しくなり、結果として実務を「習得」することができず、リスキリングの成功が困難になることが予想されます。


そのため、30代でリスキリングを考えるのであれば、できるだけ実務経験を積みやすい、隣接する領域から進めることや、業務領域の曖昧なスタートアップへの転職を検討することでリスキリングの成功率を高めることができるでしょう。


隣接する領域の観点では、例えばエンジニアとデザイナー間であれば他領域よりは遥かに実務経験が積みやすいでしょうし、シリーズAぐらいまでのスタートアップであれば姿勢次第でどのような仕事でも任される余地があるでしょう。(私はそうでした)


勿論、明確にこの業務領域で身を立てていきたいという強い目的があるのであれば、上記の考えに縛られずとも熱意でリスキリングを成功させることはできると思います。

一方で現在の業務に対する漠然とした不安からリスキリングを目指すのであれば、ドラスティックに業務領域を変えるのではなく、「習得」に必要なハードルの低い周辺領域でのリスキリングの成功を目指すと言う選択肢を考えてみるのも良いのではないでしょうか。

カバー